〜材木置き場〜 オーディンの森

化石の肋の向こう側               材木置き場に戻る

 

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連載二

 

「まいったよな、実際」

言いながらゴドーが事務所にやってきたのは次の日の朝早くだった。すでにコンピュータに向かい合ってキーボードを叩いていたガーシュインはモニターを見つめたまま、

「どうしたんだ?」

と訊いた。

「また毒でも盛られたか?」

「残念ながら今日は違うね。ビルの上から飛び降り自殺さ。おかげで交通渋滞のひどいこと」

「見たのか?」

「いや、見やしないよ。ただ、大通りに面したビルでやってくれたもんだから通行止めになってさ。バスが全然動きゃしねえ」

「それは降って湧いた災難ってやつだな」

真顔で洒落を言いながらガーシュインはキーボードを打ち終えた。

「コーヒーいるか?」

とゴドー。

「珍しい」

とガーシュイン。

「お前が俺にオーダーを聞いてくれるなんてな」

「たまにゃ気がきくさ」

「気がききついでにコーヒーは外で飲もう」

「もうお出かけ?」

「お前、遅いんだよ」

「文句は死んだ奴に言ってくれよ」

ゴドーは笑いながら言った。

事務所の入っているビルを出ると、ビルに面した通りにも車の列が並んでいた。

「ほらな」

とゴドー。

「嘘じゃないってわかるだろ」

「嘘なんて言ってないだろ」

「この不況だからな、二進も三進もいかなくなって飛び降りたい気持ちはわかるけどね」

「死んでどうするんだ」

「残った家族に保険が入るのさ」

「補いようのない悲しみとともに、か」

「会社がそれで助かるって経営者もいる」

「呪われた会社がどこまで盛り返すかは疑問だよ」

ゴドーは苦笑すると、

「呪われた、か。意外とオカルティストだったんだな」

「死ぬのがこわいだけさ」

「夕べのデートはどうなったんだ?」

「野暮な奴だな」

「これは失敬」

「どうもないよ。怒って帰ったさ」

「お前が?」

「彼女がさ」

「だよな」

「朝食は?」

とガーシュイン。

「食べたよ」

とゴドー。

「食べてきたのか?」

「欠かさないよ」

「お前らしいな」

俺は遅れそうな時はいつだって抜いているぞ、とぼやくと、時計を見ながら、

「角のカフェに入ろう」

と言った。

「いいけど、出かけるんじゃなかったのか」

店のテーブルにつきながらゴドーが聞く。

「ガルベスがこの通りを毎朝、通るのさ」

「なるほど」

ゴドーは硝子越しに見える朝の通りを眺めながら、

「ガルベスの様子を伺おうってことか」

「奴は月曜日には本店に顔を出すんだ。奴が来たら店に行ってみよう」

「出勤時間は?」

「10時半頃だな」

ゴドーは怪訝な顔で時計を見る。

「まだ1時間もあるじゃないか」

「そのくらいはほしいだろ」

「何に?」

「俺が朝食を食べ終わるまでに、だよ」

ウェイトレスが来ると、ゴドーはコーヒーを頼み、ガーシュインはモーニングを頼んだ。

「夕べの彼女はやっぱり人違いだったのか?」

とゴドーはすぐに来たコーヒーを啜りながら聞く。ガーシュインはトーストを囓りながら、

「誰かに依頼された風でもなかったがね」

と言うと、ちょっとだけ金色の瞳を空に漂わせ、

「ガーシュインと名乗ったのは失敗だったかな」

「シンプソンと名乗るよりは利口さ」

「また来るかもしれない」

「人違いとわかったんだろう?」

「妄執狂には対象が必要なんでね」

「彼女が妄執狂?」

「でなきゃ、偏執狂だろう。やっと見つけた対象を彼女がそう簡単にあきらめるとは思えないね」

「綺麗な女に追われて嬉しかろう」

「好きに言うさ」

「来た」

とゴドーが言ったのは、ガーシュインが食後のコーヒーを飲み終えてすぐだった。

「早いな」

とガーシュイン。時間は10時を過ぎたばかりだった。

「調査ミスじゃないのか?」

「10時半だよ。間違いない」

「じゃあ、奴さんが急に早起きになったってことだ」

「あり得るね」

「これは?」

とゴドー。コーヒーカップを指差すと、

「経費?」

ガーシュインは苦い顔をすると、

「コーヒー代くらい払えよ」

「だって、仕事の打ち合わせだろ」

「わかった、経費だ」

「畜生、俺も食べりゃよかった」

二人は大通りに出る。

「古美術商なんて不健康な商売のやつが」

渋滞する車の吐き出す排気ガスでけぶった通りを不快そうに見ながらゴドーは、

「こんなに早起きするのはおかしくないか」

と言った。

「それは偏見だよ」

とガーシュイン。でも、とゴドー。

「いつもより30分も早いんだぜ。勤勉にしなきゃならないわけはあるんだろ」

「それには賛成だがね」

ガルベスは店に入ったか、とガーシュインは訊いた。ゴドーは目がいい。なんといってもアンドロイドである。通りを見透かすと、

「入ったよ」

「よし、行こう」

濃い紅色の看板がかかった店の扉は濃い緑色に金で線が引かれている。入り口には埃がうっすらとかぶった黒い象が力なく鼻を持ち上げ無表情に立っていて、その鼻には「OPEN」と書かれた札が下がっている。扉は、押すと、きいっと微かな音を立てて開いた。

真っ黒い木彫りの等身大の人形が楯と槍を構えて立っているのをかすめるように通りながらガーシュインはキャメルのコートがそれを引っかけて倒さないように長めの裾を左手で抑えながら奥へと入った。

「これ、アフリカのかな」

とゴドー。

「ありがちな見解だな」

木彫りの人形の先には組木細工の大きなテーブルが置いてあってガーシュインはさもそれに感心がありそうに右手で撫でた。天板の中央は黒と濃い緑が格子になっていてそこでチェスなどのゲームをすることができるのだろう。

「駒はついてないのかな」

とガーシュインが言うと、その声を聞きとがめたように遠巻きに見ていた店員がのそのそと這うように側に寄ってきた。

「お気に召しましたか?」

空気の抜けかけた風船のように柔らかそうな頬と額に張りのない皺が寄った男だった。黴の生えたような柔らかい白い髪がうっすらと頭を覆い、硝子玉を入れたような灰色がかった瞳で彼は単調に聞いた。

「いや、」

とガーシュインは金色の瞳を男に当てて、

「駒はついていないのかな、と言ったのさ」

「残念でございますが、最初から駒はついていなかったようでございますね」

ふわふわとした言い方だったが、知識の方は確かだった。

「いつ頃の物かね?」

「18世紀後半、インドで作られた物でございます」

「インド?」

「はい、インドでございますね」

「ここはアジアの物が多いのかね?」

「最近はそうでございますね」

「ヨーロッパの物もあるかい?北欧の物だと嬉しいんだが」

「それでしたら」

男はまるで機械仕掛けで動いているかのようにそのままの姿勢で向きだけを変えて奥の方へと歩いて行った。

「北欧のどういったお品をお探しですか?」

「テーブルだよ。事務所に置きたい。今ある物は低くてね」

どうも使いづらいとガーシュインは説明した。

「あれは使いにくいのか?」

とゴドー。ガーシュインは眉をひそめると、

「にくいよ」

とだけ応えた。 

店は外見よりも広かった。奥に行くにつれて、窓がないせいだろう、店内は暗く、にもかかわらず、照明も灯っていなかった。そのせいだろう、柱のすぐ側の背丈ほどもある蝋燭立ての影からふいに人影が姿を現した時はまるでそこに突如、現れたような感じがしたのだった。まるで手品で突如そこに出現したような、そんな感じがした。

「ようこそ」

少し高めの声で彼は作りたての笑顔を浮かべながらも、まるで頭に乗った鳥の羽根をふるい落としでもするかのような固い仕種で会釈をした。

「お気に入りの物は見つかりましたか」

脂ぎった顔に柔和な笑顔が浮いている。胸には筋肉がついているのがジャケットの上からもわかる。この男がガルベスである。

「テーブルを探しているんだ。北欧の奴だよ」

とガーシュインが繰り返す。だが、と回りを見回すと、

「ここにはないようだね」

「ええ。そのようですな」

と彼は素直に答えて、

「しかし、社の倉庫の中にあるかもしれません。お探しいたしましょうか?」

「頼むよ。ガルベスの店なら商品は確かだろう」

「お褒めいただき恐縮です、ミスターガーシュイン」

一瞬、ガーシュインは黙る。が、無表情のままで、

「なんだ、知っているのか」

と言った。ガルベスの顔の笑顔は少しずつ毒を飲んだように憎々しげな表情を含んで、

「あれだけ派手に嗅ぎ回られればな」

「おや、」

とガーシュイン。

「初歩的なミスがあったようだな」

ゴドーが、

「俺じゃないぜ」

ガーシュインは肩をすくめると、

「それじゃあ、俺らしい」

と言った。

「おかしいと思ったんだ。ガルベス社の総帥自ら接客していただけるとは」

「ふざけるのもいい加減にしろ」

とガルベス。眉間には深い皺が不機嫌そうに刻まれている。

「誰に頼まれた」

「奥方に」

とガーシュイン。

「是非、御内密に願いたいね、なにし、」

言いかけた言葉も待たずにガルベスは力まかせにガーシュインの顔を殴りつけた。

「あーあ」

とゴドー。

「顔殴ると怒るぜ」

言い終わらぬうちにガルベスの顔にすぐにガーシュインの拳がヒットした。ガルベスはたまらず仰向けざまに倒れて、壺やテーブルや木彫りの人形やらの中に激しい音を立てて崩れ落ちた。店員は低い悲鳴を上げてガルベスのからだを助け起こそうと駆け寄った。その間に、

「ゴドー、行くぞ!」

ガーシュインが相棒の腕に手をかける。

 二人は大急ぎでガルベスの店を飛び出すと、二ブロックほど町を駆け抜けた。

緑色の街灯が立ち並ぶブロックまで駆けてきて、

「俺ぁ、もうこれ以上は走れねえぞ」

ついにゴドーが音を上げた。

「アンドロイドだろう?」

と自分も大きく息をはずませながらガーシュイン。

「ロボットと一緒にすんなよ」

とゴドーが応酬した。ガーシュインは後ろを振り返ると、しばらく見ていたが、

「追っては来ないらしいな」

「ああ」

とゴドー。

「今頃は店の片づけに大わらわでそれどころじゃないんだろうさ」

「いい机だったのにな」

「女房からの浮気調査だなんて言うからだ」

「ああ、あれで怒ったのか」

今さら気づいてガーシュインは言った。

 

その日の夜、ガーシュインの自宅の電話が鳴った。

彼の家は事務所の裏通りに面した高層ビルの六階にある。夜景だけが売り物の古びた部屋にベルが鳴り、受話器を取ると、

「こんばんは、ミスターガーシュイン」

女の声が抑揚ないままに挨拶をした。すでにベッドに潜り込んでいた彼はまだ浅い夢の中にいて、

「あんたなんて知らないな」

とそっけなく答えた。寝起きが悪いのはいつものことである。ましてや夜中である。不機嫌は最高潮だった。電話の向こうは相変わらず不愛想で、

「つれないのね。クララ・モリスよ」

と言った。

「クララ?」

ガーシュインは思い出さない。クララはいらついた声で、

「ポートホールでデートしてくれた坊やはあなたでしょ?」

思い出した。

「RRRはデートできるほど大人じゃなくってね」

「相変わらずね」

電話の向こうで、ほうっとクララが深い溜息をついた。

「で?」

とガーシュイン。

「何か思い出すことでもなかったかと思って」

「ないね」

「…完全には思い出さなくても少し変化とか、変わったところとか、…」

「頭痛がするくらいだね」

「それってきっと記憶が戻りそうな時の症状よ。あなたは否定するけどからだは正直だわ」

しばしガーシュインは沈黙した。

「どう?」

とクララ。

「ちょっと感動した」

「え?」

「そんな言葉を君が口にするなんてね」

クララはかっとなって、

「茶化しているのね!」

「妄想狂の相手をしてあげられるほど暇じゃなくてね。よそを探せよ」

電話はがちゃんと切れた。

ガーシュインはしばらく考えていたが、すぐにダイヤルを回す。

十五回も呼び出し音を聞いてから、ようやく受話器のはずれる音がした。

「すぐ出ろよ」

とガーシュイン。

「何考えてるんだよ、今、夜中の二時じゃないか!」

と寝ぼけ声で答えたのはゴドーだった。

「クララが電話かけてきた」

「え?」

「クララだよ。クララ・モリス」

「……バーで会った、あの古風な美人?」

「よく覚えていたな」

「普通忘れないだろう?で?」

「俺はナンバーを教えていない」

「……なるほど」

「すぐ来いよ」

と言ってから、ガーシュインは、

「いや、俺がそっちへ行く」

と答えて、ベッドから抜け出した。

 

ゴドーのマンションはガーシュインの自宅からもう一ブロック先に行ったところにある。三階建ての蔦のからまる古風な建物で、この三階に相棒は住んでいた。

ガーシュインがここに着いた時には夜中の三時を回っていた。彼はいつも通りにスーツにネクタイ姿で、おそらくシャワーも使ってきたに違いなかった。

「おはよう、いい朝だね」

とゴドー。

「よせ」

とガーシュイン。

「寝起きで機嫌が悪いんだ」

「そこいらの物に当たるなよ」

ゴドーはたてたばかりのコーヒーをガーシュインに差し出しながら忠告した。

「で、クララが何だって?」

「思い出したことでもないかとさ」

「よほど似てるんだな、彼女の尋ね人に」

「夜中の二時にだぜ」

「ずうっとかけていて、ずうっといなかったとか」

「問題は何であの女が俺のナンバーを知っていたかだよ」

「電話局に聞いたとか」

「非公開にしてるよ」

「つまり正規の手段じゃ知りようがないってことか」

ようやくゴドーは合点した。とりあえず、とガーシュイン。

「クララに会いたいな」

「勝手だなあ」

「からんでくる方が悪いのさ」

ガーシュインはコーヒーに口をつけると、すぐに眉をしかめた。

「苦いか?」

とゴドー。いや、とガーシュイン。

「頭痛がするんだ」

「……あのさ、頭痛ってのはさ、」

「よせよ、」

ゴドーが言いかけたのをガーシュインは遮って、

「記憶が戻る時の症状、ってんだろう?さっきもあの女に言われた」

「あ、そうか」

ゴドーは苦笑いした。

「よくそう聞くからさ」

「記憶力のいい君がうらやましいよ」

眉間に皺を寄せたまま、ガーシュインはコーヒーを飲んだ。

「五年前、水たまりにはまったみっともない思い出も記憶鮮明さ。そんなのがうらやましいか?」

「その膨大なデータはどこに行くんだ」

「脳味噌のひだのどっかだろうな」

「水たまりの記憶を消すには催眠術でも使うしかないか」

「あいにくと外部の作用も受けつけないようになっているんでね…もう一杯飲むか?」

「いや、結構、ありがとう」

「お前がクララに会って記憶が戻るなら、会ってみる価値はあると思うぜ」

「クララに会うのは記憶のせいじゃないさ。仕事のためだ」

「頭痛が解消するかもしれないぜ」

「頭痛が過去のせいっていうんなら、今の俺にはどうしようもないからな。今の俺に必要なのは頭痛薬三錠さ」

ゴドーは笑うと、

「これはまた即物的だな」

「何かのせいにしていても始まらないからな」

しかし、とゴドーは部屋の中を見回す。

「あいにくとうちには薬はないんだが」

「それは残念」

「買ってきてやろうか」

「いや、いいよ。頭痛の原因はわかってる」

「頭痛の原因?」

「寝不足」

ゴドーは苦笑した。

「俺のベッドを進呈しよう。女と会う段取りは朝になってから考えるといいさ」

「お前は?」

「俺はアンドロイドだよ」

「十五回鳴らさなきゃ出なかったじゃないか」

「じゃあ、俺が寝る」

「いや、悪かった、とても嬉しい、感謝している」

「抑揚のない声で言うな」

大笑いしながらゴドーは言った。

 

翌日は朝から雨模様だった。空はいつまでも暗く、おかげでゴドーは寝坊した。

 事務所のドアを開けて中に入ると、正面のいつもの机に座り、いつも通りにモニター画面を眺めながら、ガーシュインはキーボードを叩いていた。ゴドーはあきれて、

「俺も起こしていけよ」

「邪魔しちゃ悪いと思ってさ」

「御好意どうも」

「家の回り、誰かいたか?」

ああ、とゴドー。

「それで、置いてったのか」

「誰か見張ってるかと思ったが」

「気づかなかったよ。ビルの窓から見ていたかもしれんが」

「いや、それはないだろう」

「なんで?」

「雨だからさ。この視界で見える距離に窓はなかった」

なるほど、とゴドーは改めて窓の外を見る。窓ガラスには霧を吹いたように細かい雨粒がついていて、レースのカーテン越しに見るように、町並みはけぶっていた。

「そういや、酸性雨注意報、出てた」

「泣かせるねえ」

「温暖化問題シンポジウムもホールであるらしいな。そのせいでテロ活動が懸念される、ってラジオで言ってたぜ」

「テロに巻き込まれるのはいやだな。何時からだって?」

「知らないな。新聞に出てないか?」

「じゃあ取ってくれないか」

ガーシュインに言われて、気づくと、ドアに寄りかかっていたゴドーの股の間から新聞紙が覗いていた。ゴドーは引き抜いて放る。

「気づきませんで」

「どういたしまして」

がさがさと新聞紙を広げながらガーシュインは、そういえば、と言う。

「クララ・モリスの居場所がわかった」

ゴドーは低く口笛を吹く。

「いつからそんなに勤勉になったんだい?」

「ミスターボールドウィンに御足労願ったのさ」

「ああ、あの探偵先生」

「彼女自身が別な探偵にシンプソン調査を依頼していたらしい」

「その情報を外部に漏らしたのか?今時の探偵はモラルがなってないな」

「そのアンモラルのおかげでこっちは仕事がスムーズだからな」

「じゃあ、お前のナンバーがわかったのは、そっちの線?」

「彼女の探偵には俺も仕事依頼したことがある」

「電話番号は知っていて当然か」

「そういうことだな」

「探偵がミズモリスの依頼を受けたのが、昨日?」

「三日前だそうだ」

「三日前?」

「で、電話番号を教えてやったのが昨日の夕方」

「もともと知ってる番号だったんだろう?」

「もったいぶったのさ。調査費用三日分が欲しくて」

「たいした男だな」

「金がほしければ誰でもそうするさ」

「代わりに信用を失うって寸法か」

「御名答」

ガーシュインがばさっと音を立てて、新聞紙をめくった。

「場所は?」

「クララの?それともテロの?」

「クララだよ」

「トロリー通り三番地。コートリアアパートメント」

「市内だな」

「今から行くさ」

ゴドーは笑って、

「せっかちだな」

が、返事はなかった。代わりに、興味ある記事でも見つけたのか、ガーシュインは開いた新聞紙面をじっと食い入るように眺めていた。

「ガーシュイン?」

とゴドー。

「テロリストの時間割、見つかったのか?」

「いや、」

とガーシュインは依然、目は記事から離さずに、

「ガルベスが殺された」

とだけ言った。

 

連載三 に続く

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